八王子へ向かう2tトラックの助手席でCDプレイヤーを抱きかかえながら、甲州街道を西へ。 何かから遠ざかっている。 会話がとても達者な男だ。噛んで含めるような、意味が脳に行き渡るのと同じ速度でくり出される言葉は時折、心地よく私のいろんな部分の琴線に引っかかりながら関係を少しずつ強めていく。 「所詮井の中の蛙なんだよ、彼は。」 大した知り合いでも無い癖に、と思うのと同時に何故か他の彼に対するどんな評価よりも納得出来てしまうSの言葉。結果的に私と彼が知り合うきっかけを作ったSは、それ以外にも時折私の人生の中で重要な役割を果たす。 それでも。誰かの言葉に、依存しないと歩けない。 不安定なOSでも、無ければ動かないんだよ。 *** 「お前さ、お母さんに俺のことなんて言ったの?」 複雑そうにニヤッと笑う。 「暑い。喉乾いた、ポカリスエット買ってきて」 自動販売機から冷たく汗をかいた缶を取り出す。戻ってきたコインをもう一度入れ直す。二本目。 空が青い。 じっとりと絡み付く熱気、淀み無い車の流れ、誰かのオープンカーから盛大に垂れ流される浜崎あゆみの新曲。彼は売れ出す前から結構好きだって言ってたな。どこがいいんだろう。 大きめのマットレスと古いTVと本の山。他、過去の全てを置き去りにして八王子に移り住む。1年目の夏。 .
20歳/1999 |