同棲以前

 

高尾山麓のラブホテルの1室、何度目かのセックスの後朝まで、芝居と映画と接客の話、子供の頃の話、ベッドの上で闇の中、寝る暇も惜しんで何時間も話をした、20回めの誕生日の夜。

***

大学の急な坂下、ようやく見なれてきた紺色のプレリュード、まだ慣れない2人きりの食事、以外にも優しい眼差しと「食べてる時の顔可愛いな」なんて言うくすぐったい言葉。


「俺、ラブホテルより楽しいとこって行った事ない。だって隣にお姉ちゃん乗せて、これからヤリにいくんだよ?これ以上純粋な目的ってないよな」


中央本線に沿って走る車の助手席、暮れて行く町並みを離れ、光もまばらな湖水の風景の中運転中の男の横顔をしみじみと眺めながら、私はかなりいい男を見つけたのかもしれない、と心の底からワクワクしていた。横顔のラインが年齢相応に若々しく、男らしい。実に収まりのいい表情の動き。
この男を選んだのは恋愛感情よりも勘が先。
好きになる予感。男が自分に傾倒するという確信。

 

もう二度と、あんな失敗は繰り返すまい。
もう二度と、あんな不器用な愛情に足を取られるまい。
もう二度と、あんな風に男に私の人生を左右させたりするものか。

心の底でそう繰り返しながら、自分の気持ちを男のそれと等価値にもっていく努力。
上手くやれそうな気がした。

この男を本気にさせてやる。そしてどこまでも同じ程度に、バランスをあわせながら。
決して見抜かれるまい。
もう二度と、昨日の自分の行動を思い返しては歯噛みをするような、あんな恋愛は、もう二度と。

「今日、ありがとう。楽しかったよ」

努めて屈託なく。
努めて意味を込める事無く。
早朝、八王子駅、助手席のドアを閉めながら努めて、笑顔。

「うん、俺も楽しかった。電話待ってるね」

さあ、始まった。
心の底から愉快だった。
もう二度と未練がましく電話などするまい、と過去の恋愛に決別を誓った。
20歳第1日目の朝。

.

 

20歳/1999

<<index / next>>

 

 

 

 


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理